東京地方裁判所 昭和40年(ワ)11018号 判決 1975年8月27日
原告
ゼネラル・エレクトリック・コンパニー
右代表者
チャールス・イー・リード
右訴訟代理人弁護士
湯浅恭三
外五名
右補佐人弁理士
安達光雄
被告
小松ダイヤモンド工業株式会社
右代表者
石塚博
右訴訟代理人弁護士
内山弘
外四名
右補佐人弁理士
田代久平
外一名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
<前略>
二、原告は、次の特許権の特許権者である。
発明の名称 高温高圧装置
出願 昭和三四年九月九日
(特願昭三四―二八八二四号)
公告 昭和三六年一二月九日
(特許出願公告昭三六―二三四六三号)
登録 昭和三八年一〇月二日
(第三一一二三七号)
<後略>
理由
一原告が本件特許権の特許権者であること及び本件特許発明の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載が次のとおりであることは、当事者間に争いがない。
「協働する先細パンチ装置と先細圧穿台装置を有し、更に該パンチ装置により導入されるべき圧穿台装置中に形成された反応室を有し、ガスケット装置が該先細パンチ装置と該圧穿台装置の該先細壁部分との間に挿入されていることを特徴とする高温高圧装置。」
二右争いない事実によれば、本件特許発明は、高温高圧装置に関するものであつて、
(1) 先細パンチ装置と先細圧穿台装置を有すること
(2) 右先細パンチ装置と先細圧穿台装置が協働するものであること
(3) 圧穿台装置中に反応室が形成され、右反応室にパンチ装置が導入されるものであること
(4) ガスケット装置が先細パンチ装置と圧穿台装置の先細壁部分との間に挿入されていること
をその構成要件とするものと認められる。
三「先細」とは、先端の細いこと(日本国語大辞典)をいうのであるが、どのような形状、態様でパンチ装置及び圧穿台装置の各先端が細くなつていることが本件特許発明の先細パンチ装置及び先細圧穿台装置の前記構成要件を充たすものであるか、また、先細パンチ装置と先細圧穿台装置とがどのような態様で協働すれば、その協働が本件特許発明でいう先細パンチ装置と先細圧穿台装置との協働になるのか、などについては、前記本件特許発明の特許請求の範囲の記載のみからは分明でない。これを明らかならしめるためには本件明細書及び図面を参酌することが必要である。そこでこの点を成立についての争いのない甲第二号証(公報)によつて考えてみる。
(一) パンチの形状、構造に関しては、
「パンチ23は、一般に狭くなつた先細部分24を有し、その傾斜はパンチの長さに沿つて軸方向に圧力面22より与えられた大きい区域25に向つて円滑に直径方向に増大している。パンチ23は直径が約1.5インチである実質的に円筒状部分即ち基部26、広範囲の角度を有し而してひとつの形式では鉛直線に対して三〇度の角度をなし、かつ約四分の一インチ伸出せる、より小なる截頭円錐部27ならびに区域22より区域25に向つて円滑にして連続なる表面を与える中間にフレアを有する湾曲部分28を有す。」(公報二頁左欄四行〜一二行)
と記載されていて、パンチの先細部分の傾斜は圧力面から大きい区域に向つて円滑に直径方向に増大していることを示し、公報第四図もそのように図示してある。
(二) 圧穿台の形状、構造に関しては、
「壁35は、圧穿台33の水平中心線において約0.4インチの中心線上の開孔部と会合する一対の截頭円錐部分40及び40'により規定される。截頭円錐部分は、約四分の一インチ伸出して垂直線に一一度の角度をなす。円滑なフレア付き或は湾曲部分41及び41'は截頭円錐部分40及び40'を圧穿台33で始まる前述の七度の勾配を与えるよう連続的な表面を提供する。」(公報三頁左欄三一行〜三七行)
と記載されていて、圧穿台の水平中心線から、垂直線に対してある角度をもつて傾斜する截頭円錐部分並びにそれに続く円滑なフレア付きあるいは湾曲部分を持つことが明らかにされている。
すなわち、圧穿台中の反応室は垂直な面をもつて臨まれているのではないことが明白である。
(三) 前記の形状と構造をもつたパンチと圧穿台とが、その組合わせにより使用され、その組合わせが、パンチ及び圧穿台の強さに貢献することについては、
「パンチ23、23'は、壁表面35をその中に備えた中央孔、即ち第5図に図示せる反応槽36のごときその中ヘパンチ23、23'が試料或は材料を圧縮するよう移動進行する狭い先細の、即ち収斂発散圧穿台室34として一般的に記述された中央孔を有する圧穿台33より成る側圧抵抗部即ち圧穿台集合体42との関連で使用される。先細パンチ及び先細圧穿台室のこの組合わせは、パンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献する。」(公報二頁右欄一三行〜二〇行)
との記載があり
四(1) パンチ及び圧穿台の力の伝達及び分解の相互関係については、
「同時に、後に指摘されるごとくパンチ23の力は圧穿台33の室34の先細表面35に伝達される。」(公報二頁右欄二五行〜二七行)
「再び第1図において加えられた力は室11の垂直壁18に対して全く横方向であるが、第4図においてこれ等の力は横方向即ち水平方向であるのみでなく、室34の水平中心線における完全なる水平より、壁35の傾斜の進行にともなつて水平及び垂直の組合わせの方向に進展する。」(公報二頁右欄二七行〜三二行)
「傾斜面24及び35の特別の組合わせは、力分解効果に貢献する。」(公報二頁右欄三二行〜三三行)
「パンチ及び圧穿台配置の組合わせが圧穿台33の力を、室34及び壁35の水平中心線における純粋な横方向より壁35の上方極限における垂直方向に到達するよう分解する。」(公報三頁左欄一七行〜二〇行)
「湾曲面35を通つて伝達される軸方向荷重は壁35の上方部分を軸方向圧縮応力下に置く、」(公報三頁左欄二〇行〜二二行)
と記載されている。
(2) そして、前記の形状と構造をもつたパンチと圧穿台の組合わせがパンチに及ぼす効果については、
「各パンチに関して、第1図において筒状パンチ10の唯一面のみが圧縮力に抗し得るが、第4図の先細パンチ23では、前記力は22のごときパンチの一面のみでなく、先細表面24によつてもまた対抗される。この故に、先細パンチは効果的に圧縮され、かつ構築され(締めつけられ、の意であることは両当事者間に争いがなく、また、そのように解せられる)、かつその強さはより効果的に使用される。」(公報二頁右欄二〇行〜二五行)
「傾斜面24及び35の特別の組合わせは、力分解効果に貢献する。即ち前記先細面は、第1図における筒状パンチ10上に加えられた実質的に垂直方向のみの力を、第4図のパンチ23上の上の水平及び垂直方向の力の組合わせに分解する。」(公報二頁右欄三二行〜三五行)
と記載されていて、パンチに対する圧縮力はパンチの圧力面22の一面だけではなく、傾斡面24によつても対抗されるために、パンチに加えられる力が水平方向及び垂直方向の力の組合わせに分解され、水平方向の力によつて先細パンチは効果的に圧縮され、かつ締めつけられることが示されている。
(3) また、前記の形状と構造をもつたパンチと圧穿台の組合わせが圧穿台に及ぼす効果については、
「再び第1図において加えられた力は室11の垂直壁18に対して全く横方向であるが、第4図においてこれ等の力は横方向即ち水平方向であるのみでなく、室34の水平中心線における完全なる水平より、壁35の傾斜の進行にともなつて水平及び垂直の組合わせの方向に進展する。」(公報二頁右欄二七行〜三二行)
「第1図に示された放射状方向引張り破壊を防ぐために、室壁35は単に横方向のみの力だけを受けない、何となればパンチ及び圧穿台配置の組合わせが圧穿台33の力を、室34及び壁35の水平中心線における純粋な横方向より壁35の上方極限における垂直方向に到達するよう分解するからである。湾曲面35を通つて伝達される軸方向荷重は壁35の上方部分を軸方向圧縮応力下に置く、またこれに対する反動としてフープ圧縮の成分が発生する。反応容器36のごとき室34の内容物の圧力は、壁を室圧力に等しい放射状圧縮下に置き、同時に大成分のフープ応力を生成する。後者は、予加圧に基く本来のフープ圧縮プラス軸方向荷重により生ずたフープ圧縮の導入成分により対抗される。これ等の組合わさつた力は、第1図における矢印20及び第3図における矢印21'(ただし21'は表示されていない)により示される型の引張り力に抗してリング中の材質を圧縮するように作用する。)(公報三頁左欄一五行〜三〇行)
と記載されて、ピストン・シリンダー型高圧発生装置においてシリンダーが受ける横方向のみの力を、本件特許発明にかかる装置の圧穿台においては、水平及び垂直の力に分解し、もつてピストン・シリンダー型においてシリンダーが受け易い破壊(ポアソン効果並びにフープ応力による破壊)を滅殺させようとしていることが看取される。
しかして、右(1)ないし(3)を総合すると、本件明細書には、従来のピストンシリンダー型の高圧発生装置においては、ピストンは垂直方向の圧縮の力だけを受け、発生し得る最大圧力はピストンの圧縮強さによつて制限され、また、シリンダーにはその垂直壁に加わる圧力による上下の破壊(ポアソン効果)及び放射状方向に切れようとするフープ応力による破壊が起り易いために一定限度以上の圧力を発生することができなかつたが(以上のことは公報第一頁左欄第三七行ないし同頁右欄第二五行にその記載がある)、本件特許発明においては、パンチに加えられる実質的に垂直な力は圧穿台の室の内容物を圧縮する力と圧穿台を押す力とに分解され、圧穿台の壁はパンチから伝達される力及び圧穿台の室から受ける力をそれぞれ垂直方向及び水平方向の力に分解し、各垂直方向の力によつてフープ圧縮応力が発生し、このフープ圧縮応力が圧穿台の予加圧に基づくフープ圧縮応力と合して圧穿台の室の圧力により生成する大成分のフープ引張応力に対抗すること、前述の各垂直方向の力は圧穿台の壁上方部分を軸方向圧縮応力下においてポアソン効果による破壊を免れしめる効果として作用すること、圧穿台の壁は垂直線に対して傾斜しているので圧穿台の室から受ける圧力を軽減すること、そして、パンチの先細面は圧穿台の壁から達伝される力と圧穿台の室からの圧力とをそれぞれ垂直方向及び水平方向の力に分解し、各水平方向の力によつてパンチは効果的に締めつけられ、圧縮応力による破壊を免れしめる効果として作用することを内容とし、もつて材料に固有の圧縮強度、引張強度以上の力に耐え得るものにする、との技術思想が開示されているものというべきである。
以上述べたところから明らかなように、本件特許発明における先細パンチ装置と先細圧穿台装置の協働とは、前記(三の(一)及び(二))のような形状、構造をした先細パンチ装置と先細圧穿台装置とが、その組合わせにより、右に述べたような効果をもつ力の伝達と分解を行うように協働することをいうものと解される。
五本件特許発明における先細パンチ装置と先細圧穿台装置の協働とは、右に述べたような形状をもつた先細パンチ装置と先細圧穿台装置とが、右に述べたような意味での協働をすることであつて、逆にそのような協働をさせるために、本件特許発明においては、先細パンチ装置及び先細圧穿台装置を右に述べたような形状としたものであると認められ、先細パンチ装置及び先細圧穿台装置が右以外の形状をもつて力の伝達及び分解において協働することについては本件明細書中になんらの開示もない。
六原告は、被告が別紙第一目録記載の装置を使用していると主張し、被告はこれを否認している。しかして、別紙第一目録記載の装置と第二目録記載の装置の相違は、原告の主張によれば、結局ガスケットの置き方にある。すなわち、第一目録記載の装置では、ガスケットが初めから原告のいわゆるパンチと圧穿台の両先細面に接して置かれているのに対し、第二目録記載のものにおいては、それが作動開始前においてはパンチ先細面にのみ接し、圧穿台先細面に接していないということである。
原告は、被告が別紙第一目録記載の装置を使用していることの証拠として、被告会社の代表者であり、その装置の発明者である石塚博の南アフリカ共和国特許出願明細書(甲第四号証)及び平塚簡易裁判所の証拠保全手続における石塚博本人尋問の結果(甲第三号証)を挙げる。しかしながら右証拠のみで、被告が右第一目録記載の装置を使用しているものと認めることはできない。この点に関する被告の主張(第三の二)はこれを肯認できる。
原告は、更に、被告は原告が第二、六、(三)で主張するような理由で、別紙第二目録記載の装置を使用しているはずがないから、必然的に第一目録記載の装置を使用していることになるという趣旨の主張をしている。なるほど第一回の検証の結果によれば、当裁判所が検証した第二目録記載の装置を作動させてもダイヤモンドが生成しなかつたことは明らかである。しかしながら、右検証は、ダイヤモンドが生成するか否かを検する目的のものではなかつたことが明らかであるし、また、被告が検証に際して、いわゆる商業ペースに見合うほどのダイヤモンドを生成させるためには、どの程度の温度、圧力にすべきかということを開示する義務もないことと考えられるので、ダイヤモンドが生成しなかつたということから直ちにその装置は検証用に特に作られたものであるとすることはできない。原告は、更に、当裁判所の第二回の検証に際しても、商業生産に用いる装置であれば、一回でダイヤモンドが生成されるはずであるのに、十数回も合成反応を行い、しかも生成ダイヤモンドを混ぜてしまつたのであり、この不可解な被告の態度からして第二目録記載の装置は検証用に作られたものであるとの趣旨を主張する。しかし、一回でどのくらいダイヤモンドが生成するかというようなことは検証の目的でなかつたことは明らかであるから、仮に原告主張のような事実があつたとしても(検証調書には、そのような事実があつたことについては記載がない)、そのことによつて、被告は第二目録記載の装置ではなく、第一目録記載の装置を使用しているということにはならない。
七以上のとおり、被告が別紙第一目録記載の装置を使用していることの立証はないから、原告の被告に対する右装置の使用差止を求める請求部分は、その点において既に理由がない。
仮に被告が右装置を使用していると仮定しても、その装置は、次に示す理由により本件特許発明の技術的範囲に属しないから、結局原告の請求は理由がないことになる。
(一) 別紙第一目録記載の装置は、本件特許発明における先細圧穿台装置を有せず、従つて先細パンチ装置と先細圧穿台装置の、本件特許発明におけるような協働が行われない。
(1) 原告は、「先細」という語は、文字どおり先の方が細いことであつて、先細断面の傾斜が円味を帯びていることが本件特許発明の要件ではないと主張する(第二、五、(一)(1)、(ロ)及び同(2)、(ロ))。しかしながら、本件特許発明における「先細」圧穿台装置とは、該装置と先細パンチ装置とが力の分解と伝達を行うことによつて高圧による装置の破壊を免れるように協働するようなものでなければならないことは前説明のとおりであり、本件特許発明の明細書において開示されたところは、先細パンチ装置及び先細圧穿台装置が前説明のような形状をとることによつてはじめて右のような意味での力の伝達と分解とが行われるということであり、文字どおり先が細ければすべて本件特許発明でいう先細圧穿台装置に該当するといえないことは明らかである。
本件特許発明における先細圧穿台装置とは、圧穿台の水平中心線から、垂直線に対してある角度をもつて傾斜する截頭円錐部分並びにそれに続く円滑なフレア付きあるいは湾曲部分を持つものであることは前説明のとおりである。しかるに別紙第一目録記載の装置の圧穿台はそのような截頭円錐部分並びにそれに続く円滑なフレア付きあるいは湾曲部分を持つておらず、圧穿台の内壁A1―A2の壁面はパンチ(ピストン)の圧縮方向と平行に垂直である。別紙第一目録記載の装置においては反応室を形成する中央孔(被告は、被告の装置における反応室は、中空円筒体の内壁とパンチの截頭部とによつて囲まれた部分であつて、本件特許発明における反応室とは異なると主張するが、この点についてはしばらく措く。以下第一目録記載の装置について同じ。)は、垂直円筒状であつて、圧穿台が反応室から受ける力は純粋に横方向のみの力であり、この力は水平及び垂直の力に分解され得る余地はないものと考えられる。すなわち、別紙第一目録記載の圧穿台装置は、本件特許発明における先細圧穿台装置とその形状及び効果において相違する。
(2) 本件特許発明における先細パンチ装置と先細圧穿台装置との協働の意味は前説明のとおりである。
しかるに、別紙第一目録記載の装置は、本件特許発明における先細圧穿台を有しないから、本件特許発明におけるような意味での協働が行われることはない。
原告は、別紙第一目録記載の装置ではA1―A2線は垂直であり、それより内側の中央孔では協働は行われていないが、A1―A2線の外側の部分においてガスケットを通じて、本件特許発明におけるパンチと圧穿台との協働が行われており、その協働の効果は本件特許発明の実施例における協働の効果より劣るかも知れないけれども、本件特許請求範囲の文言は完全に充足していると主張し(第二、七、(四))、被告装置の圧穿台の先細壁とは、反応室の外側の断面傾斜した(立体的にはすりばちの内側のような)壁部分であり、そこにおいてガスケットを通じてパンチと圧穿台との協働が行われていると主張する(第二、七、(ニ)、(ロ))。しかしながら、本件特許発明における先細圧穿台は、その水平中心線から、垂直線に対してある角度をもつて傾斜する截頭円錐部分を持ち、その部分をもつて反応室34に臨んでおり、この部分においても力の分解が行われ、この力の分解が圧穿台の強さに貢献すること、すなわち本件特許発明における先細圧穿台は、それが反応室34から受ける力をも分解するものでなければならないことは前に説明したところであり、別紙第一目録記載の装置においては、圧穿台の反応室に面する面は垂直であつて、そこでは本件特許発明におけるような力の分解は行われず、従つて仮にA1―A2線の外側の部分においてガスケットを通じて力の伝達と分解が行われ得るとしても、その力の伝達と分解は、本件特許発明における力の伝達と分解とは異なるものであるといわなければならない。
原告はまた、本件特許発明と別紙第二目録記載の装置との対比を論ずるに際して、本件特許発明においてパンチと圧穿台の先細壁がガスケットを通じて協働している部分は極めて限られた範囲であり、いわゆる肩の部分においてこれが行われれば十分であるところ、別紙第二目録記載の装置においてはガスケットは圧穿台の先細壁とは密着していないが、パンチの押圧力により、ガスケットの端は圧穿台先細壁のA1、A2のすぐ外側の部分において密着し、そこでガスケットを通じてパンチと圧穿台との協働が行われることになると主張する(第二、七、(五))。しかしダイヤモンドを製造するには、先細パンチ装置と先細圧穿台装置とが、原告のいわゆる肩の部分で協働していれば十分であるとしても、本件特許発明にかかる装置は、圧穿台の先細載頭円錐部分においても力の分解が行われるようなものであることを要件とするものであることは繰返し説明して来たところであつて、この点から、いわゆる肩の部分で協働が行われればすべて本件特許発明の技術的範囲に属する原告の右主張は採用し得ない。
八被告が別紙第二目録記載の装置を使用していることについては、当事者間に争いがない。ところで、別紙第一目録記載の装置と第二目録記載の装置とはガスケットの置き方が異なるだけであることは前に説明したとおりである。そうすると別紙第二目録記載の装置におけるパンチ(ピストン)及び圧穿台は、本件特許発明におけるパンチと圧穿台との協働のような協働をなし得ないものであることは明らかである。証人箕村茂の証言によつてその成立を認め得る甲第六号証並びに証人箕村茂の証言によれば、別紙第二目録記載の装置においても、A1―A2線より外側の部分においてガスケットを通じてパンチ(ピストン)と圧穿台とが本件特許発明におけるような協働をなし得ることを認めるかのような記載並びに証言部分があるが、仮にパンチと圧穿台との間で協働が行われ得るとしても、その協働は本件特許発明でいう先細パンチ装置と先細圧穿台装置の協働ではないことは前説明のとおである。
以上のとおり別紙第二目録記載の装置は、本件特許発明の技術的範囲に属しないから、これが属することを前提として、その使用の差止並びにその装置及びその部分の廃棄を求める原告の請求部分はその理由がない。
なお原告は、被告が現在別紙第一目録記載の装置を使用していないとしても、その使用を開始するおそれは極めて大きいから、その予防のためにその装置を使用してはならないとの禁止の判決を求めるというが、被告がその装置を使用するおそれがあるかどうかの点は別として、その装置が本件特許発明の技術的範囲に属するものでないことは前説明のとおりであるから、原告のこの請求もまた理由がない。
九以上のとおり原告の本訴請求は、いずれもその理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(高木克巳 清永利亮 木原幹郎)
<第一、二目録省略>